試合結果詳細

「1番センター」
この言葉がこれ程までに似合う男がいるだろうか。

「私は私に出来ることをしっかりとやるだけです。その為の準備はしてきましたし、自信はあります。」
試合前の対話で、彼は平然と言ってのけた。

今シーズンの初戦ということで感覚が戻らなかったのだろう、最初の3打席は良いところが無いまま凡退していた。
並の選手だったらこの時点で気落ちして、4打席目も同じ様な感じで打ち取られていた。

ただ、言うまでもない事ではあるが、彼は並の選手ではない。
3打席のうちに、自分自身の感覚と実際のバットスイングの軌道のズレは修正していた。

そして迎えた4打席目、外角のストレートを逆らわずにライト前に運んだ。


「素晴らしい……」
私は思わず声に出していた。
経験者でもなかなか出来ないバッティングをラグビー部の彼がやってのけるんだから、世界は残酷だ。
「努力すれば夢は叶う」
そんなのは綺麗事だ。夢を拠り所にして現実から逃げているだけじゃないか。
どれだけ努力をしても叶わない夢はあるし、勝てないライバルがいる。
僅かながら私の中にあった自信が儚く崩れ去って行くのを感じていた。。。

ましてや、ライバルのバッティングに対して素直に褒め言葉が出てしまったこと……もう敗北を認めているのと同義ではないだろうか？

「上野のイチロー」
彼を表現するのには、1番センターという言葉以上に適切かもしれない。

半ば強制でやらされた坂ダッシュによって痛めた膝を摩りながら、私はグラウンドを後にした。

原田