新たな草野球チームの形

2020/4/3

プロ野球から少年野球まで国内の人気スポーツとして栄えてきた野球。今では重度の障害のある人も楽しくプレーすることができる「ユニバーサル野球」や5人制でゴムボールを使ってプレーすることができる簡易野球「BASEBALL5」など野球人気は落ちるどころか横に広がり始めている。そんな中、町の野球場では毎週末野球をプレーする大人たちを見ることができる。たかが草野球、されど草野球。teamsでは草野球に情熱を捧げる大人たちに注目し、野球への思い、チーム結成の裏側などを取り上げていく。
第5回は独自の運営方法でチーム作りをしている島根県「SUSANOO」に迫ります。

草野球チームに取材をしているとチームの在り方、結成の方法は様々だ。基本は地元の友人や会社の同僚で結成されているチームが多いが、最近では大会に個人参加したことがきっかけというチームや、好きなアイドルグループが同じメンバーでチームが構成されているチームもある。中でもよく耳にするのはSNSで募集を行い結成したチームだ。今回は島根県の草野球チーム「SUSANOO」の監督を務める貴船創一さん(27)にお話しをお伺いした。

※

貴船さんは甲子園を目指してプレーをしていた。野球は高校卒業まで。大学で部に所属して野球を続ける選択肢は取らなかったが、大学院までの約6年間、社会人の強豪軟式野球チームに所属し野球を続けていた。仕事の関係で島根県に戻ることになったとき、高校時代の同級生3人で食事をしたことがきっかけで草野球チームの結成を依頼された。しかし、当時のメンバーはその3人のみ。どうやってメンバーを集めるか検討した結果が、SNSでの募集だった。3人で話し合った結果、島根県は地元メンバーで構成されたチームが多く、また、SNSで活動を報告するチームが全くないことに気づいた。自分自身のように、県外から転勤した人や就職で島根県に来た野球好きがたくさん埋もれているのではないだろうか。集まるかだめもとだったが、結果は意外なものだった。募集に対して、参加意思をSNS上で回答してくる方々が多く、結成3年で50名がチームに関わってきた。島根県では異色のチームとなったのだ。

貴船さんは島根県の某プロスポーツチームの球団職員。普段はチケットマーケティングを担当し、チーム運営に携わっている。また、仕事の経験を活かしたチーム作りも貴船さんならでは。草野球界では珍しいチーム主催として県内チームを対象とした大会や合同練習会等のイベントを行なっている。島根県にはオープン大会が少なく、草野球を代表するような全国規模の私設大会には出場しづらい環境があった。そこを改善し、自分たちで大会を開催することで地元の方々に喜んでもらい、活動資金を集めている。また、スポンサーをチームにつけ、サプリメント提供を受けることもチームとして行っている。規模は小さいかもしれないが、まさに球団職員ならではのチーム作りといえるだろう。

チーム運営のこだわりはもちろんだが、メンバーをより集めていくためにチームとして実践する野球のスタイルにもこだわりを持っている。軟式野球はいわゆる「叩き」など、軟式野球ならではの戦略がある。ただ貴船さん自身はこの戦い方に違和感を持っており、1点を狙う野球では多くの人に魅力を感じてもらえないと考えていた。貴船さんは本来の野球の魅力であるボールを遠くへ飛ばすことや複数のポジションを守れることなど、大人になっても上達することを大切にしている。また、牽制や走塁、セイバーメトリクスの意識など、草野球では重要視しないことに注力しチーム力を鍛えている。SNSでは自分たちの野球を配信し、どういうスタイルのチームなのかを明確に発信している。

※

今後の展望をお伺いすると、「野球では地方大会や全国大会に出場できるチームにしたい、チームとしてはSNSや運営の面で今までにはないチームになりたい」と答えてくれた。チームメンバーはSNSを通じて初めて出会うメンバーばかり、関係性を深めることも難しい中、チームをまとめ、島根県から新しい草野球を発信したいという貴船さんの言葉には熱がこもっていた。草野球をするならSUSANOOでやりたいというプレーヤーも今後出てくるかもしれない。今後島根県、そして草野球界を代表するチームに成長できるか、唯一無二のチーム運営へのチャレンジは続く。

※

(teams編集部)

【おすすめ記事】

全てはチームのために、二足の草鞋を履く草野球監督

白球がつないだチーム

野球界を底辺から支えたい、アークスリーグ運営者の思いとは

他の記事を見る